2026/09/14 14:28
唯一無二の国産ストールは、こだわりの「作り手」と「素材」から【 ovonir Journal Vol.1 後編 】
試作段階では製品レベルのクオリティを出せなかった…

―― 前編では、ふだんは極細のシルクや麻などの天然素材を扱う武藤さんが、卵殻膜繊維という、これまで扱ったことのない新たな天然素材でストールづくりに挑むことになった経緯をうかがいました。完成するまでにいろいろ試行錯誤があったそうですが・・・・・・
武藤 いちばん苦戦したのは、試作サンプルを染色した時でした。染織は専門の業者さんに外注しているのですが、いただいた卵殻膜繊維で、まず白い生地を織って、それから染料につけて染色する「後染め」という方法でサンプル品をつくろうとしました。すると、染色業者さんから「この素材はいったい何なのですか?」と不思議がられて・・・。いつもの方法では製品レベルのクオリティが出せないと相談を受けました。
角谷 えっ、そうだったんですか!
武藤 はい。…でも染色業者さんもプロなので、染め方や時間を工夫していただき、解決できました。このときはあくまでサンプル品で、本生産時は「後染め」ではなく先に糸を染めてから生地を織る「先染め」と決まっていたので、問題なく進みましたが、試作段階とはいえ初めてのことに驚きました。
角谷 卵殻膜の性質が何らか影響していたのかもしれませんね。実は「染め」については、私たちも染色チームを結成して、研究し始めているところです。
武藤 初めての素材なので、染めだけでなく、どの工程でも慎重に取組みました。中でもいわゆる織物を機械で織り上げる「製織」は、糸の張り具合がものすごく大事な工程です。織ったことのある素材であれば、経験値がありますが、初めてだとどの程度の強度なら切れないかわかりません。おっかなびっくり微調整しながら進めました。もう1つ心配だったのは、フサがきれいにできるかどうか、でした。生地を織るとき、フサになる部分は織らずに隙間を空け、最後の検反工程でその隙間部分の真ん中をカットします。すると、経糸がフサになります。最後の最後の工程で、きれいなフサができるか、新しい素材なのでドキドキしていました。
双方のこだわりが重なり至極の一枚に

武藤 うちは光沢あるとろみ感をもつストールが得意なのですが、これまでにはない光沢ととろみのある製品ができたと思います。検品スタッフも手に触れて「気持ちいい」と言っていました。
角谷 そう言われると自信がつきます! 卵殻膜繊維100%のアイテムをつくるのは初めてで、「どんな風合いのものができるんだろう」と楽しみでしたが、武藤さんのスタッフの皆さんが「触れて気持ちがいいもの」といえるものに仕上げてくださったのだと思います。ソフトに織り上げていただいたことで、卵殻膜繊維が持つ風合いの良さを120%引き出していただきました。
――このストールを首に巻くと、巻いた瞬間に顔がふわっと明るくなる気がしますよね。ボリューム感は出るけれども重たくない。ふんわりと風をはらんだようなきれいなシルエットになって、素材の持ち味が活かされていると思います。
武藤 ありがとうございます!実は、新素材を扱うのは4,5年ぶりでした。「新しいことにチャレンジしよう!」という気持ちをもつことの重要性をあらためて感じています。
角谷 それにしても5工程とうかがっていましたが、実際工場を見せていただくと、何度も糸を巻き直したりと、かなり手間暇をかけられている様子。ていねいにつくられていて、だからこそ、いいものができるのだと感じました。
素材と対話しながら未来を紡ぐ

――最後に、それぞれものづくりへの想い、今後目指したいことなどをお聞かせください
武藤 ぼくは、素材によって織り方を変えて、よりいいものを織っていきたいと思っています。それを実現するには、単に「織る」のではなく、「織りこなす」ことが大切だと思っています。うちのものづくりは、ボタンを押せばOKというものではなくて、ある意味誰もができるものではありません。糸は“生きもの”で、同じ糸でも昨日はちゃんと織れたのに、今日はしっくりいかないこともある。なので糸の様子を見ながら、あるときは対話しながら、あるときは祈りながら(笑)つくっています。難しさはありますが、そこに楽しみや面白さがあります。暮らしにいつもMUTOがある--そんなふうにライフスタイルに溶け込めたらいいなと思っています。
角谷 まさに私も、素材と対話しながら、試行錯誤の連続です。今回のストールは初の「卵殻膜繊維100%のアイテム」ですが、通常は様々な他の素材と組み合わせてアイテムを開発します。卵殻膜繊維の良さを引き出すには、どんな組み合わせがいいのか、何をどんな割合で混ぜればどんな風合いになるのか、ずっと素材に向き合い続けてきました。卵殻膜繊維を使ったアイテムを、朝から晩まで着続けてもらいたいですし、具体的な商品を多くの人に提案していきたい。肌に触れるものは、「もう、これじゃないと!」となるような、心地よくて気づいたら24時間身につけていたとなるような・・・・・・。そんな着心地に加えて、気分がアガる、心も満たされていると感じるようなものづくりがしたいです。
――お二人のお話をうかがっていると、「天然素材を使う」「風合いを大事にする」というプロダクトにおけるこだわりだけでなく、ものづくりに向き合う姿勢や信念も通じるものがあると感じます。ところで、卵殻膜繊維100%という究極の逸品ができたとなると、もうこれ以上のものはない?それとも次がある?とワクワクしますが、どうなのでしょうか。
角谷 卵殻膜繊維を使ったブランド「ovonir」の「ovo」はラテン語で「卵」、「nir」は「未来」という意味の「avenir」。つまり、「卵」と「未来」を掛け合わせています。ovonirのアイテムは少しずつ増えてはいますが、まだまだ生まれたばかりの、これからのブランドです。でも、だからこそ、未来への可能性がある。これからも素材と向き合う中でどんなものが生まれるか、武藤さんと同じく楽しみながら挑戦していきたいと思っています。

武藤様との対談を通じ、「織りこなす」という技術と熱意、素材への真摯な姿勢に深く感銘を受けました。 私も素材と対話し、ものづくりを楽しむ姿勢を大切にしながら、これからも素肌と心を満たす新たな可能性に挑戦し続けたいと思いました。ぜひこのストールを多くの方に手に取っていただきたいです。

▶取材後記
ゆで卵をむくとき、「じゃまだなあ」といつもイライラしながら、はがすのに悪戦苦闘していた内側の薄い膜。そんな「じゃまもの」にそれほどの力があったとは!考えてみれば、命を守っている膜だから特殊な力があるのは当然か。そこから繊維をつくるとの発想に驚いたが、卵殻膜繊維100%のストールを触ってみて、またビックリ。さらりとした手触りはシルクにも似ているが、畳んだストールに触れると、まるで大好きなわらび餅のようなもっちり感。そして首に巻いてみるととても軽い。これはオールシーズン使えそう。ストールフェチの私としてはとっても欲しい。これまでストールといえば、高価な海外ブランド品を清水の舞台から飛び降りるつもりで手に取っていたが、国内産の素材かつ国内の技術で、金額的にも無理のないこんなにステキなストールがあるなんて!研究開発、企画から商品化までに携わる方々の技術と熱意のたまものなんだなと、日本のものづくりの底力を実感した取材でした。

