2026/09/07 17:53

唯一無二の国産ストールは、こだわりの「作り手」と「素材」から【 ovonir Journal Vol.1 前編 】

卵の殻の内側にある薄い膜“卵殻膜”をアップサイクルした「ovoveil(オボヴェール)」。
シルクのようななめらかな風合いで、肌にもやさしい天然由来の繊維素材です。
この「ovoveil」の良さを120%感じられる製品をつくりたい。
そんなときに出会ったのが、素材の持ち味が最大限に表現できるような「織りこなし」の技術を持つ、武藤株式会社。
同社はストール専門の製造会社で、糸を紡ぐ段階から仕上げまで、一貫生産体制をもつのが強み。ラグジュアリーブランドのOEMも手がけられています。
「天然素材」というキーワードでつながった両者の「こだわり」が合致して、「ovoveil」100%でつくられたストールが誕生。
出会いから完成に至るまでの道のりや、ものづくりへの思いについて、武藤株式会社の代表取締役専務、武藤亘亮さんとovonirディレクターの角谷有希の対談からひもときます。(以下、敬称略)

「風合い」ある素材を、ふんわりと織りこなす


――まず自己紹介を兼ねて、それぞれのお仕事内容についてお話ください

武藤 創業して79年。富士吉田市・西桂町の富士山の麓で、祖父の代から織物業を営んでいます。当初は婚礼布団や裏地などを扱っていましたが、現会長の父が社長就任を機にストールの製造販売に切り替えました。ぼくは大学3年生の時に実家でアルバイトをし、百貨店でストール販売も経験。以来、15年ほど、ストールに触れています。今は兄が社長、ぼくが専務という体制で運営しています。

【写真:武藤亘亮さん】

角谷  私は、卵殻膜繊維(「ovoveil」)を使ったアパレルブランド「ovonir」のディレクターとして企画開発から、販売促進・PR等、世に出るまでを担当しています。卵殻膜繊維とは、卵の内側の薄い膜を使った繊維素材。この素材をいろんな商品に使っていただきたくて、その良さを伝えるため様々なサンプルや商品をつくっています。今回ovonirブランドにおいて、初めて卵殻膜繊維100%のアイテムであるストールをリリースすることができました。
【写真:角谷有希】

――ともに繊維を扱ってものづくりに携わられているお二人ですが、どのようなことにこだわってお仕事をされていますか。

武藤 いかにお客さまに手に取っていだだけるか、自社製品の特徴である風合いをどう伝えるか考えながら仕事をしています。当社は天然素材、それも極細の糸を織るのが得意。ストールを首に巻いたとき、風合いを活かした“ふわっ”とするような巻き方を提案したりもしています。ふんわりと織りこなせるよう、あえて昔ながらのゆっくり織れる機械を使っているのもこだわりです。
【写真:シャトル織機】経糸(たていと)が緯糸(よこいと)をふんわりと包み込むように織り上げるシャトル織機。この機械を生産している工場はもうないそう。廃業予定の織物工場から機械を譲り受けることも


ずっと卵殻膜繊維を触っていると肌がわかる「ちがい」

角谷  特に最初に触ったときの「風合い」は大事ですよね。卵殻膜繊維も卵のタンパク質によって独特のとろみのある風合いがあります。加えて「卵のアップサイクル」「肌のバリア機能を維持する」という特徴があって、私はそれを存分に活かせるものづくりにこだわっています。商品のサンプルづくりのために1日中卵殻膜繊維を触っていると、夕方に指先がなんか違うなと気づくんですよ。水分が取られていないというか・・・。

武藤 あ、それわかります! 僕もリネンのような堅めの糸にずっと触れていると手が少し荒れてくるんです。でも卵殻膜繊維はそうならない。検品作業をしているスタッフもそういっています。「なんか、ちがう」と。

「おもしろそう! 織ってみよう!」とチャレンジ

――とろみのある風合いを持つ卵殻膜繊維と、その風合いを引き出す「織り」の技術。この2つはどのようにして出会ったのでしょうか? 武藤さんは「卵の殻の膜でつくった繊維」と聞いて、どう感じましたか?

武藤 最初はメールでお問い合わせいただき、その時点で「面白そう!織ったときどんな風合いになるかな」とワクワクしました。うちも天然繊維を扱っているので「肌に優しい」ことも共通しています。また自分たちもシルクカシミヤの糸を開発しているので、ものづくりへの取組み方にも親近感を抱きました。さらに、肌のバリア機能があることについて、エビデンスをしっかり取られているのも魅力でした。

角谷  ありがとうございます!実は最初は、大阪・関西万博に出展した際、展示サンプルとしてストールを作ることになりました。卵殻膜繊維の研究開発者がストール好きだったこともあり・・・(笑)。そこで、ストールなら武藤さんだろうと紹介され、お願いすることになりました。私は、卵殻膜繊維の心地よさを実感できるのは、直接肌に身につけるアイテムこそだと思っているので、素肌に巻くストールはぴったりだ!と思いました。万博での評判がとても良かったので、商品化することになったんです。

――武藤さんが実際に卵殻膜繊維を手にしたとき、どう感じましたか?

武藤  ふだん触らない風合いの糸だなと感じました。光沢があったので、織り上がったときのきれいさ、特に光が当たったときは美しいだろうなと想像しました。

角谷  糸に触れただけで想像できるんですね!卵殻膜繊維100%のアイテムは今回のストールが初めてで、これまでの綿混などのアイテムなとはまた違った風合いになるのではと、私もとてもワクワクしていました!

富士山の伏流水で洗い流すワケ

――卵殻膜繊維からストールができるまでの道のりを教えてください

角谷  まず私たちのほうから糸状の卵殻膜繊維をお渡しします。そこから先は・・・私たちには未知の世界です(笑)。ぜひ、聞かせてください。

武藤 ぼくらが糸を受けとったら、まず「枷上げ(かせあげ)」をします。糸を枷で巻いて大きな輪状の束にまとめるんです。なぜこれをするのかというと、織る前に糸を先に染める「先染め」でつくるからです。束状にすることで、平らになって糸がきれいに染まります。
【写真:枷上げ】左:糸が枷上げ機にかかっている所 右:枷を先染めしたもの
先染めの場合は「枷上げ」に糸を巻くのが最初の作業。つまり、糸をゆるやかに巻き直すわけで、その分手間がかかっているが、糸がきれいに染まる


そして糸を染めたら、カバーリングという加工をします。風合いをよくするために繊細な糸を使っているため、その糸だけだと切れやすいので、水溶性の補強糸を糸に巻くんです。
【写真:カバーリング加工機】経糸に水溶性の補強糸を巻き付ける機械。この工程は外注していたが納期と品質を向上させるため自社工場に導入し一貫体制が整った


角谷  えっ、卵殻膜繊維に補強糸が巻かれていたとは! そのまま織るのですか?

武藤 はい。でも安心してください。生地を織った後に、お湯で洗って補強糸を溶かします。さらに真水、つまり富士山の伏流水でも洗います。
【写真:ワッシャー】生地はぐるぐる回しながら洗浄され、ここで補強糸がはがれる。60℃~80℃のお湯で1時間ほど洗う


角谷  富士山の伏流水は、一般的な水道水で洗うのとは何かが違うのですか?

武藤 このあたりの伏流水は軟水で、不純物が少ないんです。その水で洗うので、補強糸がよりきれいに落とせたり、風合いもよくなります。染色は隣町の専門業者さんに依頼していますが、染色にもこの真水を使うそうです。

角谷  水が違うと色も違うと聞いたことがあります。

武藤  そうなんです。鉱物が入っていると染色時に思うような色が出ないようです。実は、その染色も含め、卵殻膜繊維を扱うのは、ふだんの設定とは異なり、いろんな試行錯誤がありました。

< 9月中旬公開の後編へ続きます。 >